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なぜTMSはうつ病治療に使われるのか?脳回路モデルからわかりやすく解説

2026/04/22

■なぜ、うつ病治療で「脳回路」に注目するのか?

前の記事では、うつ病を説明する代表的な考え方として、モノアミン仮説を紹介しました。
モノアミン仮説は、
セロトニンやノルアドレナリン、ドパミンといった神経伝達物質の働きの低下が、うつ症状に関与するという考え方です。
この考え方は現在でも重要ですが、一方で、それだけでは説明しきれない点もあります。

  •  抗うつ薬は比較的早く脳内に作用するのに、症状の改善には時間がかかる
  •  同じ薬を使っても、十分な効果が得られない方がいる
  • ストレスや環境、反すう傾向など、脳内物質だけでは語れない要素がある

こうした背景から、近年ではうつ病を
「脳内物質の不足」だけでなく、「脳の回路(ネットワーク)のバランスの乱れ」として
捉える考え方
が重視されるようになってきました。


■うつ病を「脳回路モデル」で考えるとは?
臨床の現場では、患者さんからこうした声を聞くことがあります。
「頭ではやらなきゃいけないと分かっているのに、体が動かない」
「同じ考えがぐるぐる回ってしまって止められない」
「気持ちを切り替えたいのに、うまく切り替えられない」
「“まあいいか”と思えず、ずっと引きずってしまう」
こうした感覚は、「気分が落ちている」というよりも、
頭の働きそのものがうまく切り替わらない・止められない状態と表現されることもあります。
脳は、ひとつの場所だけで働いているわけではありません。
感情、注意、意欲、思考、自己評価といった機能は、複数の領域が連携することで成り立っています。
うつ病では、この連携のバランスが崩れていると考えられています。
たとえば、

  • 辺縁系:不安、悲しみ、恐怖などの感情反応に関わる
  • 前頭前野:感情の調整、判断、注意のコントロールに関わる
  • デフォルトモードネットワーク(DMN):自己内省や反すうに関わる

といった回路があります。
これらのネットワークがうまく噛み合わなくなると、

  • 気分が落ち込みやすい
  • ネガティブな考えから抜け出しにくい
  • やる気が出ない
  • 頭ではわかっていても動けない

といった状態が生じやすくなります。
つまり、うつ病は単に「物質が足りない」というより、
脳のネットワーク全体が、うまく調整できなくなっている状態として理解した方が、臨床
的にしっくりくる場面が少なくありません。


■「燃料」ではなく「交通」の問題として考える
モノアミン仮説が「燃料(ガソリン)が足りない」という考え方だとすると、

脳回路モデルは「道路が渋滞している、あるいは信号がうまく切り替わらない」という考え方です。
ガソリンを足しても進めないときは、
交通整理(回路へのアプローチ)が必要になるというイメージです。


■薬は「無意味」なのではなく、見方が一段深くなった
ここで誤解してほしくないのは、
脳回路モデルが、モノアミン仮説や薬物療法を否定するものではないという点です。
抗うつ薬は今でも重要な治療の一つですし、実際に助けられている方も多くおられます。
ただ、現在の理解では、薬の効果も単に神経伝達物質を増やすだけでなく、
その先にある神経可塑性、つまり脳のネットワークが変化し、再調整される過程と関係している可能性が指摘されています。
その意味で、うつ病治療は

  • 物質の変化を通して回路が変わる治療
  • 回路そのものに直接アプローチする治療

の両方を含む時代に入ってきたと考える方が自然です。


■では、回路そのものに働きかける治療はあるのか?
こうした「頭では分かっているのに動けない」「考えが止まらない」といった状態に対し
て、
脳の回路そのものに働きかける方法はないのか、という発想から出てくるのが
**TMS(経頭蓋磁気刺激療法)**です。
TMSは、磁気を用いて特定の脳領域に反復的に刺激を与え、
脳のネットワークの働きに影響を与えることを目的とした治療法です。
薬のように全身に作用するのではなく、
特定の回路にアプローチするという点に特徴があります。


■TMSは、脳のどこにどう作用すると考えられているのか?
TMSでよく刺激対象となるのは、**背外側前頭前野(DLPFC)**と呼ばれる領域です。
この領域は、注意のコントロール、感情調整、意思決定などに関わっており、
うつ病では働きの低下や、他の感情系ネットワークとのバランスの乱れが関与していると
考えられています。
TMSは、このような領域に反復的に磁気刺激を加えることで、
局所だけでなく、その先につながるネットワーク全体の働きに変化を与える可能性があります。


■QEEGとのつながりをどう考えるか
前の記事でも触れたように、脳のネットワークの状態を考えるうえで、
補助的な情報の一つとなるのがQEEG(定量的脳波検査)です。
QEEGは診断そのものを確定する検査ではありませんが、
脳の活動パターンの偏りや傾向を把握する手がかりとして活用されることがあります。
つまり、

  • 脳の状態を考える
  • 必要に応じて補助情報を得る
  • どのようにアプローチするかを考える

という流れの中で、QEEGとTMSは、
どちらも「脳回路モデル」に基づく理解の延長線上にあります。

 

■まとめ:TMSは「薬の代わり」ではなく、視点の違う治療
TMSを理解するうえで大切なのは、
これを単純に「薬が効かなかった人の次の手」とだけ見ることではありません。
むしろ、

  • うつ病を脳内物質だけでなく、脳回路の問題としても捉える
  • そのうえで、回路そのものに働きかける方法を考える
  • その一つとしてTMSを位置づける

という流れで理解した方が、実際の臨床にも近いと思います。
TMSは万能な治療ではありません。
しかし、うつ病を「脳のネットワークの乱れ」として考えたとき、
一定の理屈をもって位置づけられる治療法の一つです。


■次にできること
ここまで読んで、

  • 「これ、自分の状態に近いかもしれない」
  • 「気分というより、頭の働きの問題かもしれない」

と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
TMSについては、実際の治療の流れや、どのような方に検討されることが多いのかなど、
もう少し具体的に知ることで、イメージしやすくなります。


次の記事では、

  • TMSはどのように行われるのか
  • どのような方で検討されるのか
  • 治療を受ける際に知っておきたいポイント

について、より実践的な内容を解説しています。
→ TMS治療の流れと適応について詳しく見る

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